マンションでは子どもの成長に合わせて、“可変的”な収納を。整理収納コンサルタントが実践する整理収納術

マンションで暮らす子育て世帯の多くが、子どもの成長とともに収納スペースの確保や整理収納で悩んでいるのではないでしょうか? おもちゃ類はもちろんのこと、習い事に行くようになったり、学校に通い始めたりすると、一気に子どもの荷物が増えます。もっと成長したら、個室も必要になるかもしれません。

大人も子どもも快適に過ごしたい。でも、スペースが限られたマンションで、いったいどう工夫すればすっきりするのか……と頭を抱えている人も多いはず。

そこで、整理収納コンサルタントとして活動する本多さおりさんのご自宅にお伺いしました。これまでにコンサルティングを手がけた件数は400件以上で、著書は20冊以上。自身でも中古マンションをフルリノベーションし、スペースを有効活用しながら親子ともに暮らしやすい空間を実現されています。

「子どもの成長に合わせた可変的なスペースづくりが必要」と説く本多さんの空間づくりには、いったいどんな工夫が詰め込まれているのでしょうか?

本多さおりさん
整理収納コンサルタント。2019年に中古マンションを購入し、家事がラクで家族みんなが暮らしやすい家を目指し、フルリノベーションを図る。夫、長男、次男の4人家族。『家事がとことんラクになる 暮らしやすい家づくり』(PHP研究所)『あるものを活かして愛着のある部屋に育てる』(大和書房)など著書多数。

用途の限られた「個室」ではなくスペースをより有効に使いたい

約65㎡の中古マンションをフルリノベーションした本多さんのご自宅。家中をぐるっと回遊できる間取りで、こちらは左半分の寝室とリビング部分。仕切りのない開放的な空間が広がっている

── 本多家は、家中をぐるっと回遊できる間取りが特徴的ですよね。なぜこの間取りにしたのでしょうか?

フルリノベーションによりぐるっと回遊できる間取りになっている

本多さおりさん(以下、本多):とにかく「家事動線の良い家にしたい」という考えがありまして。整理収納コンサルタントとしていろんなお客さまのご自宅に伺ったり、私自身がいろんな賃貸アパートやマンションに住んできたなかで、「家事動線が良いって、つまり行き止まりのない家」だなと思ったんです。

── 確かに仕切りが一切なく、まるで巨大なワンルームのようなつくりですよね。

一方こちらは、右半分。手前からキッチンと洗濯機が横並びで、ダイニングを抜けてベランダまでも一直線に設計し、家事のしやすさにこだわった

本多:個室って、勉強とかに集中するときや寝るときにしか使わないじゃないですか。限られたスペースに、特定の時間しか使わない部屋があるのって、もったいないなと思って。それなら、「寝室」のように用途や利用時間を絞るのではなく、仕切りをとっぱらって可変性のある空間のほうが、狭いスペースを有効活用できるな、と。

── なるほど。でも、一人になりたいときや着替えるときなど、個室が欲しいときもありますよね? そういったときはどうされているのでしょうか?

本多:実は、部屋中に隠し扉があるんです。寝るときや着替えるときは、扉を引いて個室をつくることができます。子どもの学校のお友達が遊びに来たときは、個室をつくってあげて“秘密基地ごっこ”をしているときもありますね。特に寝室は、扉を全部閉めると昼間でも真っ暗になるので、子どもたちはプロジェクターをつけてYouTubeやゲームを楽しんでいます。その間、大人は家事や仕事に集中できるのもメリット。

状況にあわせて個室にしたり、開放的なワンルームにしたりと自由が効くから、大人にとっても子どもにとっても居心地がいい空間がつくれるんです。

冒頭の左半分のスペースは引き戸を引くことで個室に早変わり。普段、このスペースは家族の寝室として使っている
収納の扉を引くと、寝室と廊下を仕切ることが可能。右側のアコーディオンカーテンはふとん収納スペース

子ども部屋はあえてつくらずリビングに集約

── 本多家には、現在小学校3年生と1年生のお子さんがいらっしゃいます。子ども部屋はないとのことですが、子どもたちは普段どこで勉強したり、遊んだりしているのでしょうか?

本多:よく使うおもちゃも、勉強机も、すべてリビングスペースに置いています。だから、子どもたちはほとんどの時間をここで過ごしていますね。床に畳が敷き詰められているからリラックスできるのか、学校のお友達が遊びに来たときも、自然とリビングに集まるんですよ。

畳が敷き詰められたリビングは子どもたちの勉強部屋兼遊び場

── なぜ子ども部屋をつくらなかったのでしょうか?

本多:これまでの経験上、「子ども部屋って、数年しか使わないな」と思っていて。子どもが子ども部屋メインに過ごすようになるのは、中学生や高校生の間だけで、それ以外は、物置になっているご家庭が多いんです。

そうした現状を踏まえて、今の自宅をリノベーションするときに「先の未来まで考えすぎない」と決めていたんです。わが家の子どもたちがいつ個室を欲しがるかは、親の私にも分かりません。もしかしたら小学生の間に欲しいと言われるかもしれないし、高校生になっても言われないかもしれない。それなら私は、目の前の暮らしやすさを優先させたいなと。

── 子どもたちが成長して、「個室が欲しい」と言われたときはどうする予定ですか?

本多:わが家の広さや間取り的に、新たに個室をつくるのは難しいんです。カプセルホテルのような一人になれる空間なら設置できますが、4人で住むのが窮屈に感じるようになったら、引っ越しも視野に入れるべきでしょうね。「なんとしてでもここに住み続けよう!」とまでは考えていませんね。

家具選びの時点で「可変性」を意識する

── 子どもたちの勉強部屋と遊び場を兼ねたリビングについてもっと教えてください! 小学校にあがると、ランドセルや教科書など、荷物が一気に増えますよね。かさばるものも多いから、収納場所に悩んでいる人も多いと思います。本多家では、学用品はどう整理しているのでしょうか?

本多:わが家では、リビングの真ん中に無印良品のスタッキングシェルフを2台並べて置いていて、兄弟それぞれのランドセル置き場にしています。教科書やプリント類、毎日学校に持っていく給食セット、あとは“一軍”のおもちゃの収納場所もここです。

学用品の収納には、無印のスタッキングシェルフを活用。写真手前は兄、奥は弟用に。シンプルな形で収納パーツも豊富だから、子どもたちの成長にあわせて柔軟に組み換えや拡張ができる

本多:シェルフ内の引き出しやボックスにはラベルをつけて、何が入っているか一目で分かるようにしています。

毎日の登校準備がしやすくなるよう、引き出しやボックスにはラベルをつけて管理

── シェルフなどの家具を買い足すときに、意識していることはありますか?

本多:移動しやすいか、スタッキングや並べたりできるかなど、“可変性”を重視しています。例えばこのシェルフは、もともとお兄ちゃんの学用品を収納するために購入したものです。この春、弟が小学校にあがったため、1台追加で購入しました。同じシリーズだから並べても違和感なく、スッキリして見えますよね。

── なるほど。可変性のある家具だと、子どもたちの成長にも柔軟に対応できそうですね。学校の宿題や勉強はこのシェルフの上で?

本多:いえ、リビングの脇に置いてある、ローテーブルでしています。子どもが座ってちょうどよい高さで、引き出しが2つあるから兄弟で分けて使えるんです。

友人の家具職人がつくったというオリジナルのローテーブル。マンションのリフォームを手掛けてくれた設計士に設計図を書いてもらった

本多:このマンションに引っ越してきた当初は小さかった子どもたちも小学生になりました。遊びと勉強に使うものはリビングにまとまっているから、ほとんどリビングから動かないですね。

── リビングを子どもが占拠している間、本多さんご自身はどうやってリラックスされているのでしょうか?

リビングの壁には、子どもたちがよく使うゲームやモニターが壁面収納されている

本多:私は、ダイニングやキッチンで家事や仕事をしながら、リビングにいる子どもたちの様子を見ています。扉はないけれど、空間は仕切られているからか、お互いの存在を感じながら、案外リラックスして自分の時間を過ごすことができるんですよ。

リビングの反対側にある、ダイニングの一角が本多さんのホッと一息つける場所。ここに可動式のテレビを持ってきて、家事をしながらドラマ鑑賞することもあるのだそう

どんどん増えていくおもちゃは使用頻度別に収納

── 先ほど、“一軍”のおもちゃはリビングのスタッキングシェルフに収納している、とお話がありました。その他のおもちゃは、どのように収納しているのでしょうか?

本多:ダイニングの棚の中、リビングのクローゼットの中、あとは寝室にも収納しています。年齢があがるにつれて、遊び方自体がゲームやYouTubeが中心になってきていますし、よっぽどお気に入りのおもちゃ以外はたまに取り出して遊ぶ程度になりました。だから、使う頻度にあわせて収納場所を変えています。

リビングのすぐ脇、ダイニングのシェルフに収納された“二軍”のおもちゃたち

── 収納場所は異なっても、ラベルをつけて何が収納されているのか一目で分かるようにしているのは、共通しているのですね。

本多:そうですね。子どもたちには、片付けを「後始末」ではなく、「未来の自分のため」だと思ってほしくて。

── 片付けは、未来の自分のため?

本多:はい。「遊んだ後の後始末」だと思うから、片付けは面倒でやりたくないものと思ってしまう。だからといって片付けないままでいたら、壊したり、なくしたりしてしまいますよね。それって結局、未来の自分を悲しませているんですよ。ちゃんと片付ければ、未来の自分が「あのおもちゃで遊びたいな」と思ったとき、すぐに遊ぶことができます。その体験を子どもにもしてほしいから、使用頻度で収納場所を分けたり、ラベルをつけたりと、片付けやすくなるような工夫をしています。

おもちゃ箱にしている木のボックスはIKEAのもの。別売りのキャスターをつけることでより片付けやすくなっている

家族みんなが使うクローゼットは家のど真ん中に

── 先ほど、おもちゃは「リビングのクローゼットの中にも収納している」とのお話がありました。リビングに、しかも間取りのど真ん中にクローゼットがあるのも本多家の特徴ですよね。

間取りのど真ん中に大きなクローゼット(赤線で囲った収納−1)を設置

本多:この家に引っ越してくる前は、寝室にクローゼットがついている部屋に住んでいたんです。ただ、いちばん端っこに位置していたせいか、洗濯物を片付けるときも、子どもたちの服を取り出すときもアクセスが悪くて……。子どもたちが寝ているときや、集中して遊んでいるときは、出入りしづらいですしね。

「家の真ん中にクローゼットがあったらいいのに」という思いを設計士さんに伝えて、この間取りにしていただきました。

── 実際に、家のど真ん中にクローゼットがある生活はどうですか?

本多:家事動線がすごく良いです! リビングはもちろん、寝室からも、ダイニングからもすぐにクローゼットに行けるので使いやすくなりました。洗濯や片付け、着替えやお出かけの準備もしやすいですね。

ど真ん中に位置するクローゼットには、おもちゃの他、家族全員の衣類を収納。子どもたちが一日を過ごすリビングに位置しているため、朝の支度や寝る準備もスムーズに

壁面収納で可視化することで登校時の忘れ物を防止

── 本多家には、収納家具がとても少ないですよね。そのわりに、とてもすっきり整理整頓されている印象を受けます。

本多:マンションはスペースが限られているので、収納家具や収納用品はできるだけ買わず、もともと所有している家具や家自体の仕組みでやりくりするように意識しています。

例えば、私が仕事に使っているデスクは、もともと家にあったワゴンと、余っていた板を組み合わせてつくったものです。

ワゴンと板で手作りした、本多さんオリジナルのデスク

本多:他には、壁面収納を積極的に使うようにしています。

── そういえば、リビングの壁には有孔ボードを活用した壁面収納がありましたね。

有孔ボードを活用した壁面収納コーナー

本多:はい。わが家のリビングの壁はベニヤ板でできているので、簡単に有孔ボードを打ち付けられるんです。よく使うおもちゃの他、毎日必要な水筒、帽子、ハンカチなども壁面を定位置にしています。目に見える場所にあるから、忘れ物防止にもなるんですよ。

子どもたちは、学校から帰ってきたらまずここに水筒や帽子をかけるのが習慣になっている

本多:我が家では、リビング以外の場所でも壁面収納に頼っています。例えば、家中の壁には、可動棚を簡単に取り付けられる住宅専用収納システム「シューノ」のパーツを取り付けています。自由に棚の位置を変えたり増やしたりできるので、ライフスタイルの変化に合わせた使い方ができるのが利点ですね。

「シューノ」は上から下までたくさんの穴が開いているため、好きな位置に棚やパイプが取り付けられる
「シューノ」を活用した、洗面台付近の壁面収納

画用紙の絵は縮小コピーして1冊のノートにまとめておく

── その他にも、限られたマンションのスペースを有効活用できる工夫があったら教えていただけますか?

本多:例えば、子どもたちが画用紙に描いた絵ですね。結構大きくて枚数が増えるとかさばりがちになります。うちではそれらを縮小コピーしてノートに貼り付けて残しています。絵の他にも、お友達がくれたお手紙や思い出の映画の半券、写真なんかもここに貼っていますね。

元のサイズのまま保管しようとすると、場所も取るし結局見返さないと思うんです。でも、ノートに記録して手の届く場所に置いておけば、いつでも振り返れます。私のお客さまにもよくおすすめしている方法です。

お子さんの描いた絵は縮小コピーしてノートに記録

── 確かにこれも立派な「収納術」といえますね。では、最後に本多さんが考える、限られたスペースのマンションで、家族みんなで心地よく暮らすための極意を教えていただけますか?

本多:物はできるだけ買わないこと、でしょうか。物が増えれば増えるほど、生活スペースはどんどん狭くなっていきます。「収納スペースが足りないな」と思ったら、まずは収納の仕方を変えたり、収納場所を変えたりしてみてください。ほとんどの場合は、それで解決します。勉強や運動と同じように、ただ頭の中で考えるだけでは整理整頓はできません。まずは、手を動かしてみましょう。そうしているうちに、家族のライフスタイルにあった収納方法が見つかるはずですよ。

それでも購入する必要がある場合は、「移動できるか」「後から増やしても違和感がないか」「子どもが成長しても使えそうか」など、“可変性”があるかどうかを考えてみてください。

── ありがとうございました!

本多家と同じく、わが家もマンションに家族4人で住んでいます。現在子どもは小学2年生と年中さんで、ちょうど「下の子が小学生になったら、収納家具を増やしたり、子ども部屋をつくったりしたほうがいいのかな……」と悩んでいたところ。しかし、本多さんのお話を聞いて、「限られたスペースでも家族みんなのびのびと過ごせるよう、まずは今あるもので工夫してみよう!」と思えるようになりました。

間取りは簡単に変えられないけれど、心地よく暮らすための収納術は、マネできるところも多そうです。本多さんが実践する子どもの成長に合わせた収納術、ぜひ、みなさんも参考にしてみてください。


構成:仲奈々
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部