ザブングル加藤さんは2022年、「父が住む三重の実家がゴミ屋敷化している」と『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)へ相談。業者と共に実家の荷物を大量に処分する様子を公開しました。
両親の生前整理を手伝ったことで、ザブングル加藤さんが考える「モノとの付き合い方」や「親との距離のはかりかた」とは? 生前整理から2年経過した、現在のお父様の暮らしぶりについても伺いました。
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第三者が介入したことで、やっと実家の片付けに着手できた
ザブングル加藤さんの実家は、家の中までツタが這い、荷物が壁を押し破るほどの荒れ具合でした。なぜ、ゴミ屋敷化したのでしょう。
「幼い頃から、封のあいたマヨネーズが5本ほど転がっている環境で育ちました。親は昔からモノをため込むタイプだったんでしょうね。ただ、汚部屋レベルまでひどくなったのはここ最近のことなんです」
ザブングル加藤さんのお父様は、思い出深い両親の遺品を整理できないまま暮らしていたそう。祖母手づくりの人形がほこりをかぶったまま放置されている状況だったと言います。
「実家は13年前に亡くなった祖父母の代から借りている賃貸物件で、祖父母の遺品が山積みだったんですよ。正直、そんな部屋でも父が幸せに暮らせるなら、そのままでいいと思ったんです。敷地内からモノが溢れることはなかったし、近所からのクレームもなかったから。
けど、大家から『建物を取り壊すことになった』と連絡があって、退去しなくてはいけなくなりました。そこで大急ぎで片付けが必要になったんです」
悩んだザブングル加藤さんは、「片付けって、何から始めたらいいんだろう?」と番組のディレクターに相談します。ディレクターは現状をヒアリングすると、その場で『生前整理、片付けの様子を番組で取り上げよう』と提案してきたそうです。
その後、撮影前の下見のため、お父様が住む三重の実家まで訪問してくれました。
「『こんな部屋で暮らしていたら、だめですよ』とディレクターが僕の父を諭してくれたんです。そこで初めて父の気持ちが変わりました。
それまでは僕から『使わないものは捨てたらどう?』と声をかけても、渋ることが多かったけど、第三者から部屋の状態を指摘されたことで、『このままだとダメだ』と気が付いたみたいです」
三重の実家は、100m2以上ある4DKの賃貸物件。お父様はそのうちの一部屋だけで生活を送り、残りの部屋は荷物置き場と化していました。
4DKから2Kに大幅ダウンサイズも、モノが減って快適に暮らせている
実家の片付け当日は、専門の清掃業者が入ることになりました。プロが次々に部屋の荷物を処分し、作業はスムーズに進んだそうです。
ぶ厚くて場所を取るアルバム類は、写真だけを段ボール箱にまとめ、他の思い出の品はすべて処分。お父様が捨てるのをためらった仏壇も、「供養してから処分します」と業者が声をかけたのを機に、踏ん切りがついたと言います。
ザブングル加藤さんは当時を、「父は趣味の将棋関係のモノや本を捨てることに抵抗がありました。丁寧に説得したことで、作業が進むようになりました」と振り返ります。
その後、お父様は市営住宅へ転居。4DKから2Kへ大幅サイズダウンしましたが、荷物が少なくなったおかげですっきりとした部屋で生活を続けているそうです。
また、引っ越しに伴い、運転免許証の返納もしました。
「『高齢だし、運転免許もそろそろ返納した方がいいんじゃない?』と弟が説得してくれました。最初は戸惑っていましたが、自家用車を手放したことで歩くことが増え、他の人と会話をするきっかけにもつながっています。一人暮らしで社会とのつながりが心配でしたが、今は地域の子どもたちに将棋を教えていて、忙しい日々を送っているみたいです。
現在、父が生前整理を後悔するそぶりはありません。モノを捨てた時点で、祖父母との思い出や寂しい気持ちをリセットできたみたいです」
母親の生前整理を潔く諦めた理由
プロに頼ることでお父様の生前整理を成功させたザブングル加藤さんですが、もう一つ悩みがあります。
「両親は離婚していて、母は父とは別の場所で一人暮らししているんです。その母の家も、ゴミ屋敷とまではいかないけどモノが多いんですよね」
しかもお母様の方は持ち家で、「私が亡くなったら、あなたに家をあげる」とザブングル加藤さんに持ちかけているそう。
「正直、資産価値も高くないですし、母の家は相続したくありません。子どもの立場としては、母が今後認知症にでもなったら状況が複雑になるから『とりあえず、元気なうちに荷物を少しでも減らしてほしい』と思っています」
しかし、お母様はお父様と比べて自分の意見をしっかりと持っているタイプ。生前整理を勧めても、「絶対に意見を聞いてくれない」と言います。
「使っていないお皿が20枚くらいあるんですけど、捨てるのを嫌がるんです。『誰か来たら使うから持っておく』って。来客なんてこれまでなかったのに、誰が来るっていうんでしょう。でも、そういうことを本人は理解していないんですよね。
本当は、僕以外の第三者にも手伝ってもらって『すてきなお皿ですね。私に下さい』とか、優しいうそを交えながら声をかけて、少しずつ処分するのが良いんだと思います。でも、実家が遠方なので僕は細かくケアできない。なかなか難しいです」
続けて「母の家は、相続することになったら解体するつもり」と語るザブングル加藤さん。しかし、解体時に残置物が多いとその分の産業廃棄物処理代も必要となるため、解体業者に支払う金額が多くなってしまいます。
「仮に家の解体に200万円、残存物の処理代も含めた産業廃棄物の処理代に追加で30万円かかるとしたら、僕は『母ともめるより、30万円多く払えばいいかな』って思っています」
もう、母の生前整理は諦めている、と語る加藤さん。
「母を説得して片付けるのは、いちいち口論になるし、ストレスです。それに、東京と実家を往復する交通費の方が産業廃棄物処理代より高くつく。いっそのこときっぱりと諦めて、ストレスなく生きた方が楽だと思うんですよ」
「無理なものは無理」ときっぱりと語るザブングル加藤さん。この意見には、弟さんも賛成しているそうです。
「これまでの人生を振り返って、『親子関係で、これだけはやっておいて良かったな』と思うのは、仕送りをしなかったことです。芸人の先輩方から、『仕送りをすると親の生活水準が上がって、浪費家になるよ』と聞いたことがあるんです。だから僕も『お金がない』と親へ伝えてきました。
もちろん、両親の引っ越し代やエアコン設置など、その都度必要な費用は援助するようにしていますけど、アテにされないようにしています。それが結果的に、実家のモノを今以上に増やさないことにつながっている気がします」
付かず離れずの距離で実家を見守るザブングル加藤さん。結果的に自分の家族を守り、互いに自立した生活を送ることにつながっています。
「荷物に家賃を払うのはもったいない」モノに縛られない暮らし
そんなザブングル加藤さんですが、両親を反面教師に育ち、自身はミニマリスト。
「芸人としてブレイクした時には、モノを所有することに豊かさを感じて、好きな漫画や本を一気に1000冊くらいそろえたこともあるんです。けど、やっぱり一度読んだらあまり読まなくなるじゃないですか。『公共の図書館を自分の本棚だと思えばいい』と考えるようになってからは、家の本をほとんど売って手放しました。そこからは、読みたい本があったらまず図書館で探すようになりました」
2児の父でもあるザブングル加藤さん。子どもたちが描いた図画工作などの作品類も、写真撮影してデータに残し、ほとんど処分。さらには、クリスマスツリーや五月人形などのシーズンアイテムもほとんど購入していないそうです。
「七五三の時期に母からかぶとの飾りが突然送られてきたことがあるんですけど、それもすぐに捨てましたね。クリスマスツリーは持っているけど、子どもが成長して飾りつけをやりたがらないから、そろそろ処分しようかなと思っています」
しかし、お子さんたちはモノを捨てずにため込むタイプだとか。
「最近は、『おもちゃを1つ買うなら、家にあるおもちゃを3つ捨てよう』と説得するようにしています」
徹底してモノを増やさない生活を送るザブングル加藤さん。その堅実な生活ぶりから、2021年には『手取り20万円台からはじめる3000万円貯金術大全』(宝島社)を出版。コロナ禍の2020年には、国家資格である消防設備士の資格を取得し、芸人の仕事の合間に消防設備点検の仕事を引き受けています。さらに2023年には宅地建物取引士にも興味を持ち、同年に合格しました。
「消防設備点検のため、たくさんのお宅を訪問させていただいています。そんな中、僕が感じたのは、『お金持ちは物を持たない人が多くて、生活が苦しい人ほどモノに囲まれて暮らしている』ということです。お金持ちは、『長く使わない物は手放す』という判断ができるんじゃないでしょうか。僕はそんな生活の方が、豊かに生きられる気がします」
なぜなら、物が多い暮らしは、生前整理の時だけでなく、「日々の生活の中でも負担を強いるから」とザブングル加藤さんは語ります。
「例えば、1人暮らしの人が8畳の部屋で暮らすのに、荷物で2畳が埋まっていたら、荷物のために家賃を1~2万円多く払っているのと同じことですよね。使わない荷物にお金を払うのはもったいない。僕は少しでも荷物を軽くして、お金の負担も抑えた生活がしたいなと思います」
お金をかける部分とそうでない部分を冷静に見極めるザブングル加藤さん。
生前整理で親子間の確執に悩む方が多い中で、「生前整理を諦めて、追加料金で解決する」という新たな選択肢を見出していました。その背景には、「自分にとって一番大切なものは何か」を最優先に考える姿勢が感じられます。そうすることで、両親も自分の家族も、結果的に守ることができるのかもしれません。
<撮影:小原聡太 / 構成:結井ゆき江 / 取材・編集小沢あや(ピース株式会社)>