リフォームを機に、調湿性能に優れ、高い消臭効果を発揮する自然素材「漆喰(しっくい)」を内装に選ぶ人が多くいます。
今回は、漆喰や無垢(むく)材など、自然素材にこだわった住まいづくりを提案する四季の住まい企画室 本部 部長の深津昌樹さんにご協力いただき、漆喰壁の魅力やプロ目線でのおすすめポイントをたっぷりと教えていただきました。
記事の目次
漆喰とは?「呼吸する壁」と呼ばれる理由
長く暮らしてきた住宅のリフォームや古民家リノベーションでも支持される漆喰壁。
自然素材であることから「健康に配慮した暮らしがかなう」と言われています。
「9年前に建てた自宅にも漆喰を取り入れています」という深津さんならではの視点で、その魅力を教えていただきました。
漆喰が「呼吸する壁」と呼ばれる理由
漆喰の主原料は水酸化カルシウム(消石灰)。サンゴを原料とした自然素材です。
「『呼吸する壁』と言われる由来は、漆喰が持つ調湿効果にあります。湿度が高いときには湿気を吸い、低いときには出してくれる。消臭効果も高く、快適な空間を生み出します。カビが生えにくい効果もあるので、湿気の多いところにとても効果的です。漆喰だけでも固まりますが、より定着力を高めるために海藻のりを混ぜて使用することもあります。どちらにしても自然素材のみで構成できるのが漆喰の魅力です」(四季の住まい企画室 深津さん、以下同)
漆喰と似ている?珪藻土と漆喰の違い
漆喰と同じように調湿効果や消臭効果が期待できる壁材の一つに珪藻土(けいそうど)があります。
珪藻土は、藻類の一種である珪藻の化石が主原料。目に見えない細かな穴がたくさん開いていて、ゆず肌と呼ばれるザラっとした表面が特徴です。
漆喰にも細かな穴がありますが、こちらはツルツルとした見た目に仕上がります。
漆喰と珪藻土を比較すると、色合いにも違いがあります。
ナチュラルな白色が定番の漆喰同様、珪藻土も白色がベースですが、こちらは着色料を混ぜて使用する機会も多く、カラーバリエーションが豊富です。
部屋やインテリアのテイストに合わせて漆喰と珪藻土を使い分けることもできますが、自然素材にこだわる四季の住まいが漆喰を採用しているのには理由があるそうです。
「漆喰は自然素材だけで壁材として使用できますが、珪藻土は接着能力がないため、合成接着剤を混ぜる必要があります。つまり、漆喰を採用することで自然素材にこだわった家づくりがかなうのです」
壁紙や塗装の壁からリフォームできる?
内装を漆喰にリフォームする場合、元の壁の状態を確認することが重要です。
下地となる壁の強度が弱いと、漆喰を塗ったあとにひび割れの原因になってしまう可能性も。リフォーム後の仕上がりや耐久性に大きく関わるので、プロの目でしっかりとチェックしてもらいましょう。
また、壁紙には大きく分けると下記3つの種類があります。
①ビニールクロス
②紙クロス
③布クロス
紙クロス、布クロスの場合、下地が水分を吸収することで硬化不良を起こしてしまうため、全て剥がしてからの施工となります。
「当社では、新築で漆喰を施工する際は、裏側で壁を支える木を何本も打って、壁がたわみにくくなるように工夫しています。漆喰は固まると石のように硬くなり、壁紙と比べると重みがあるので、施工前の準備が非常に重要です。リフォームの場合も土台となる壁のチェックを行い、必要に応じて補強を行います」
内装を漆喰壁にするメリット
自然素材の漆喰を家づくりに取り入れることで、うれしいメリットがたくさんあります。
「漆喰は高い機能性が特徴です。新築を検討されている方に、モデルハウスだけでなく、当社で施工して実際に人が暮らしている住宅を見学いただくのですが、ほとんどの方が『生活臭がしないね』と消臭効果の高さに驚かれます。私自身もそうですが、漆喰壁は暮らすほど魅力に気がつけますよ」
ここからは、漆喰壁が持つメリットをご紹介します。
調湿機能で1年中快適
漆喰の魅力は、何といっても湿度を快適に保ってくれる調湿効果。雨が続く梅雨の時季も、じめっとした空気が気になりません。
湿度が高いときには自然と湿気を吸収するため、部屋干しの洗濯物が乾きやすいことに驚く方も多いようです。
抗菌・消臭効果が期待できる
漆喰壁の家に住み始めて9年たつという深津さんも漆喰の消臭効果をリアルに実感しているそうです。
「家に来たお客さんからは『生活臭がないね、木のいい香りがする』と言われます。漆喰の内部は強アルカリ性なので雑菌が繁殖しにくく、さらに紙というよりも石に近い材質なのでニオイがつきにくいんです」 食べ物やペットのニオイが気になる空間も漆喰壁を取り入れることで抗菌・消臭効果を期待できます。
さらに深津さんによると、漆喰は寝室にもおすすめなんだそう。
「睡眠中は無防備に呼吸をするので、環境がとても大切です。漆喰は静電気を帯びず、ホコリがつきにくいので、空気をきれいに保ってくれますよ」
防火性・耐水性・断熱性がある
真っ白なたたずまいから「白鷺(しらさぎ)城」と呼ばれる姫路城の外壁をはじめ、日本の歴史的建造物にも多く使われている漆喰。昔から重宝されてきた理由には、高い防火性・耐水性・断熱性があります。
漆喰は建築基準法でも定められている不燃材料の一つで、火に強く、火事になりにくい防火性を誇ります。さらに、外壁にも使用されるほど高い耐水性や、光熱費の節約にもつながる断熱性があり、ランニングコストやメンテナンスにかかる維持費を抑えることができます。
自然素材で体に優しい
自然素材の漆喰は、シックハウス症候群(居住空間で起きるさまざまな健康被害)や化学物質過敏症の原因となるホルムアルデヒドを吸着・分解してくれることでも知られています。
小さな子どもがいる家庭やアレルギーに悩む人にもおすすめの素材です。
仕上がりのバリエーションが豊富
自然素材ならではの風合いが魅力の漆喰ですが、塗り方にはさまざまな種類があります。
「漆喰の塗り方は、コテ押さえという真っ平な仕上げが基本です。それ以外にラインを楽しむ櫛引(くしびき)模様や、あえてムラのある仕上げにするコテムラ仕上げ、波のような柄が特徴のさざなみ仕上げなどがあります。和室に使われているイメージが強いかもしれませんが、塗り方次第で洋風の空間にもマッチしますよ」
塗り方一つで雰囲気をがらりと変えられるので、部屋ごとにデザインを変えてみるのも楽しいのではないでしょうか。
内装を漆喰壁にするデメリット
たくさんのメリットを持つ漆喰ですが、自然素材であること、施工が難しいことからいくつかのデメリットも考えられます。
材料費・工事費が比較的高額
自然素材である漆喰の施工には下地処理・乾燥・本塗りなど多くの工程が必要なため、壁紙より手間も時間も、そして材料費もかかります。
さらに施工費も高くなる傾向があるので、リフォーム費用をできるだけ抑えたい方は、あらかじめ予算を決めた上で検討しましょう。
職人の技術力が仕上がりに影響する
内装リフォームで漆喰壁を取り入れたい場合は、漆喰の施工に慣れているリフォーム会社を選びましょう。漆喰は扱いが難しいため、職人の技術力によっては仕上がりの美しさや耐久性に問題が発生する可能性もあります。
「私も漆喰塗装に挑戦したことがあるのですが、素人では厚さを均等にすることさえ不可能でした。それくらい漆喰は扱いが難しく、職人さんの左官技術によって仕上がりが大きく左右されます。美しさを長く保つためには、塗る前の構造チェックなども重要なので、漆喰の施工実績が豊富な会社に依頼してください」
汚れやひび割れの補修に費用がかかる
漆喰は経年変化がほとんどなく、メンテナンスフリーな素材と言えますが、ひび割れや亀裂が生じた場合には補修費用がかかることも想定しておきましょう。
「壁紙と異なり、漆喰は日焼けをしないので、施工時の美しさをずっと楽しめます。ただし、施工会社や職人の技術、生活環境によっては、ひび割れが生じる場合があるので、その際は補修を検討しましょう。また、漆喰は水を弾かないので、コーヒーやジュースといった水気のある汚れには注意が必要です。ちょっとした汚れであれば消しゴムやメラミンスポンジ、塩素系漂白剤で落とせますが、泥などの汚れは落とせないケースもあります」
漆喰壁にする施工費用の相場
一般的な壁紙よりも材料費や施工費がかかる漆喰。ここからは、壁紙との比較や費用を抑えるコツをご紹介します。
壁紙や塗装との費用比較
リフォーム会社に漆喰壁の施工を依頼した場合、費用相場は1m2あたり3000円~4000円前後。下地を整えるための撤去作業など大掛かりな工事が必要な場合は、追加費用がかかります。
壁紙にもグレードがあるため、一概に比較はできませんが、一般的な壁紙は1m2あたり1000円〜となるため、漆喰と比較すると3分の1ほどでリフォームすることができます。
「希望の予算がある場合はリフォーム会社へ伝えてみてください。予算が決まっていると業者側からも提案がしやすくなり、自分では想像もしなかったプランと出合えるきっかけになるかもしれません」
漆喰を取り入れる空間を限定する
どうしても漆喰を使用したいけれど費用が気になる場合は、漆喰壁の面積を減らしたり、空間を限定する方法もあります。
「漆喰を一部の部屋に採用する場合は、やはりリビングがおすすめです。長い時間過ごす空間ですし、食べ物などのニオイを抑える効果を実感できます」
漆喰ならではのデザインや機能をどのように取り入れるか、プロの意見を参考にしながら検討してみてください。
漆喰壁を取り入れた素敵なリフォーム実例3選
どんなテイストにも合わせやすく、ナチュラルな雰囲気を楽しめる漆喰壁。ここからは、内装リフォームで漆喰壁をかなえた実例をご紹介します。
漆喰壁と無垢(むく)の床で落ち着く寝室にリフォーム
防カビ効果のある漆喰と無垢の床材を活用した寝室。
以前は壁紙に汚れがあり薄暗い印象だったそうですが、漆喰を施工したことで明るい空間に生まれ変わりました。
心身を休める寝室にふさわしい、木の香りが心地いい寝室になっています。
【DATA】
リフォーム費用:42万円
リフォーム部位:寝室
設計・施工/四季の住まい
漆喰仕上げで明るい印象の和室にリフォーム
落ち着きのある抹茶色の壁から、白い漆喰壁にすることで部屋の雰囲気を明るく一新。
ふすまを開けておけば、無垢材をふんだんに取り入れたリビングと一体化します。
仕切りを開けて使うことを前提に、空間を上手く活用したリフォーム実例です。
【DATA】
リフォーム費用:400万円※和室は60万円(概算)
リフォーム部位:和室、キッチン・システムキッチン、トイレ、リビング・ダイニング、玄関
設計・施工/四季の住まい
古民家の風合いを生かした和モダンな空間に
間取りは大きく変えず、不要な壁や建具をなくすことで広々としたリビングにリフォームした築100年以上の納屋。
床は足腰にも優しくなるようにと柔らかめの唐松を使用。既存の柱や梁(はり)もきれいに磨き、塗り直した漆喰の壁や無垢材とともに、趣のある美しい古民家に変わりました。
【DATA】
リフォーム費用:915万円※リビング・ダイニングは38万円(概算)
リフォーム部位:リビング・ダイニング、キッチン、浴室、トイレ、洗面所・脱衣所、玄関
設計・施工/四季の住まい
漆喰壁のリフォームで後悔しないためのポイント
自然素材の漆喰だからこそうれしい効果がある反面、リフォーム時に気をつけなければいけない注意点があります。
内装リフォームで漆喰壁を検討する際は参考にしてください。
漆喰壁の施工に慣れているリフォーム会社を選ぶ
漆喰壁のリフォームを依頼する前に、まずは各リフォーム会社の施工事例を確認しておきましょう。
「自然素材に力を入れているリフォーム会社さんでも、漆喰を得意とするところはそう多くありません。慣れていない左官職人による施工では、仕上がりが全然違いますし、将来的な補修工事の費用も変わってきます」
DIYではなく経験豊富な左官職人に任せる
漆喰は塗装の難しさもさることながら、原料である消石灰が強アルカリ性であることからもDIYで挑戦するにはハードルが高い材料です。
「乾燥後は全く問題ありませんが、塗装の段階で素手で触れると肌荒れや化学やけどを引き起こす危険性があります。目に入ると失明する恐れもあるため、経験豊富な左官職人に任せましょう」
費用だけでリフォーム業者を判断しない
繰り返しになりますが、漆喰の仕上がりや耐久性は職人の技術に左右されるため、「安いから」という理由だけで業者を選ぶと後悔する可能性も。ひび割れなどの修繕を繰り返すことで、結果的に高額な費用がかかる恐れもあります。
また、自然素材であることが魅力の漆喰ですが、なかには材料費を抑えるために合成接着剤や合成樹脂などの石油由来のりが混ぜられているケースもあります。
見積もり依頼時に「どうしてこの価格なのか」の根拠をきちんと説明してくれる会社を選ぶのがおすすめです。
まとめ
今回は、健康に配慮した素材として再注目されている漆喰について詳しくお届けしてきました。漆喰への内装リフォームは、材料費・工事費が比較的高額になりますが、耐久性が高いため、長期的に見ればランニングコストを抑えることができます。
漆喰を得意とするリフォーム会社を見つけて、理想の空間を作りましょう。
取材協力/四季の住まい
構成/梨本明世(ドコドア)
取材・文/松永春香